田老復興まちづくり支援プロジェクトとは

田老復興まちづくり支援プロジェクトとは

概要についてご紹介します。

岩手三陸の復興を目指して

 3•11東日本大震災から2年が経過した時点で,重要と考えられる事柄について,以下に記した.継続的なご支援,自らの問題としての今一度の奮起を切にお願いしたい.

1.復興は加速できるということ

 国としての備えのなかった想定外の震災から,岩手においても県民,行政ともに経験のない初めての取り組みが続いてきた.この2年間,深い悲しみを受け止めつつ,試行錯誤しながら学びながら堅実,勇敢に歩んできた.その挑戦と学びの過程から,これからの長い復興への道に向けて,掛替えのない,新たな地域社会の基盤の創成という成果が生まれつつある.
 個人・世帯や個別事業主体による夢中の復興への取り組み,その前向きな自己の開拓や社会への働きかけ,行政との遣り取りを通して,個別の主体だけではなく地域社会自体が以前とは比較にならないほど進化しつつあることを重視しなければならない.
 震災以前よりもさらに,柔軟で打たれ強く,役割分担・使命を認識し,相互信頼・尊重を基礎においた地域社会の基盤が醸成されつつある.震災以前や直後よりも,無からの社会づくりの知識・知恵,術,連携・恊働の力を私たちはもちつつある.津波災害からの復興の,逆境からの地域づくり・まちづくりの実践家になりつつある.
 この震災から学び創ってきた新しい地域社会の基盤の上に,私たちは復興を継続・加速することになる.これまではその基礎づくり,準備段階にあったともいえる.

2.復興計画の大枠についての再確認

 2年を経て,被災者,県民,国民が改めて,防潮堤の高さや高台の造成等の国土防災のあり方,観光や景観形成との共存などの今後のまちづくりについて,議論する機会が増えてきているように見受けられる.復興まちづくりが本格化するに伴い,これまでは計画だったものが,実態をともない現実味をもって議論されることになる.
 復興計画の策定手順,その決定のプロセスを背景も含めて改めてわかりやすく説明し,共有することが重要と考えられる.
 防潮堤,今次津波浸水域,土地利用規制,今後のまちづくりが,相互に関係していること.特に防潮堤の高さの設定は,国土における危機管理や公平性の観点から国民が納得できること,長期的な指針となるような,わかりやすさや統一的基準が重視されたことを理解の上,今後のまちづくりへの前向きな議論を促したい.

3.行政―住民間コミュニケーションの継続とさらなる深化に向けて

 復興まちづくりに関わる多くの調整事項を住民の納得のもとに前進させるためには,住民同士や行政−住民間で,幾度ものコミュニケーションを積み重ねる以外にない.3•11震災以後,いくつもの対立と和解を繰り返しながら,復興に向けての相互信頼,一体感が少しずつ形成されつつある.
今後も,住民参加,被災者の意見を尊重する立場から,丁寧な説明の繰り返し,行政から住民への働きかけを継続していただきたい.
 人間同士のコミュニケーションである以上,被災者,県民は,行政担当者の職務内容はもとより,人柄や働きぶりをみるという傾向がある.このことが岩手の強みとなってきたのかも知れない.互いの顔の見える行政―住民間コミュニケーションが途切れないように年度移行時などの引き継ぎでの配慮をお願いしたい.

4.土地の権利関係の調整について

 復興まちづくりは,平常時には想像できないスピードで進んでいる.しかし,被災者や県民には,形になったものは見えやすいが,事務手続きが進んでいることは見えにくい.区画整理や防集の手続きの進捗状況を,よりわかりやすく説明することが望ましい.また,土地所有者との権利調整が復興まちづくりのボトルネックになる地域が存在しかねないことが未だ強く懸念される.その解消のため,国と地方行政が力を尽くさなければならない.

5.復興道路の整備について

 復興道路の整備は,内陸部-沿岸,沿岸―沿岸の交通所要時間を短縮し,三陸沿岸の立地条件を明確に改善する.事業計画に基づきながらも極力早期に供用が可能になるよう整備事業の迅速化が望まれる.三陸沿岸の国土計画上の位置づけ,水産資源の活用策,産業育成等を復興道路の開通を前提に展開していきたい.復興道路のインターから市街地・工業団地・水産加工場等へのアクセスを考慮した交通ネットワークの形成を進めていくことが望ましい.また,内陸—沿岸を連結する復興道路においては,復興道路の高速性が確保できるよう,現道を域内交通,復興道路を内陸−沿岸を含む広域交通に特化させる使い分けが望ましい.復興道路の活用策,そのための総合的な道路交通施策の準備を進めることが重要と考える.

6.生活再建の担い手の確保について

 岩手においても復興計画の3本柱として,なりわい再生,安全なまちづくり,生活再建を掲げている.産業の担い手としての水産業,安全なまちづくりの担い手としての行政・建設業,しかし,生活再建の担い手の姿が十分には見えてこない.
 津波による被災世帯と浸水域外の非被災世帯の心理的な距離,既にはじまっている他の地域への転出,今後本格化する宅地開発によって生じる移転等,地域のコミュニティ再建に関わる懸念は,数年にわたって継続することになる.これまでの地域社会の継承,新たなアイデンティティーの創出,地域経営のためのコンテクストづくりが求められている.三陸沿岸では,震災前後における地域コミュニティの形成に,住民間の対話の場の提供や地域イベントの開催等を通して地元商店主の果たしてきた役割が大きかった.継続が予測される人口転出により存亡の淵に立つ地元小売店が少なくない.まちの核づくりと高台等の開発により分散傾向にある住宅地をつなぐハードとソフトの仕組みづくりが求められる.
 復興は急がなければならない.しかし,被災者を殊更に焦られてはならない.多くの身内を亡くした被災者にとって2年前は,まだ昨日のことである.被災地は3•11震災以来,試行錯誤を繰り返しながら,知恵をつかみ取りながら前進してきている.この学びのプロセスこそ重視すべきである.国民が災難からの生活再建のために地面を這いつくばりながら立ち上がろうとしている.新しい地域社会を,人間関係を紡ぎだそうとしている.彼らが復興後の地域を背負っていくことになる.国民は,彼らを歴史上の手本としながら,今後数千年に亘り起こり得る震災への危機管理体制や復興まちづくりに備えることになる.
人口が減るのは誰がみても当たり前である.人口の減少予測などは,この営みの歴史的な重みからみると,中身のない傍観論にすぎない.人口が減ることが,地域の存続,生活水準の確保にとって致命的であるからこそ,未だ続く危機的状況にどう対処すればよいかに議論を尽くし,できる限りのことを実践に移すべきなのである.この危機を乗り越えられずして,我が国は今後起こり得るどの地域の如何なる危機も乗り越えられるはずはない.

平成25年3月18日
南 正昭(岩手大学)

  • 岩手大学
  • 岩手大学工学部 社会環境工学科 都市計画学研究室