
下水汚泥分離液からの液肥原料の生産技術開発
下水には、リンや窒素、カリウム等の肥料成分が含まれています。これらの肥料を輸入に依存しているため、国内での資源循環を促進する目的で、下水処理場から有用な成分を回収し肥料を製造することが求められています。本研究では、下水汚泥から液肥を製造するために肥料元素類(リン、カリウム、アンモニア態窒素)を回収し、さらに電気透析技術を使って成分を濃縮しています。濃縮した液は肥料成分だけでなく重金属や有機フッ素化合物(PFAS)等の有害物質を分析しており、安全性も確認しています。このように、安全・安心な液肥原料を生産するための新規技術を開発しています。
この研究は岩手大学、山形大学、岩手県、株式会社日水コンとの共同研究であり、「下水汚泥分離液からの液肥原料の生産技術開発と肥効・安全性評価」という研究テーマで国土交通省の下水道応用研究に採択されています。

「下水汚泥分離液からの液肥原料の生産技術開発と肥効・安全性評価」全体の概要

電気透析装置

ヒ素汚染土壌・堆積物の処理を目的とした亜ヒ酸の酸化と不溶化
土壌や堆積物中の亜ヒ酸(As(Ⅲ))の溶出抑制手法を開発するために,鉄(Ⅵ)酸カリウム(K2FeO4)によるAs(Ⅲ)のヒ酸(As(Ⅴ))への酸化と、そのAs(Ⅴ)の浄水汚泥に含まれるAlを用いた不溶化を検討しています。ヒ素は主に2つの形態(As(Ⅲ)とAs(Ⅴ))があり,As(Ⅲ)のほうが有害かつ不溶化が難しいという特徴があります。したがって,As(Ⅲ)をAs(Ⅴ)に酸化したのちに,不溶化する必要があります。
K2FeO4は,含まれるFe(VI)が強い酸化力を持つ環境に優しい酸化剤です.さらに,反応後は凝集効果を有するFe(III)に還元されます。したがって,鉄(Ⅵ)酸カリウムのみでAs(Ⅲ)の酸化とAs(Ⅴ)の不溶化が可能です。
研究ではK2FeO4を自作して実験に使用していますが、K2FeO4は非常に反応性が高く品質の維持が難しいため,コストが大きいという問題点があります。そこで,浄水汚泥からアルミニウムを溶出させ,As(Ⅴ)の不溶化に利用することを検討しています。

キレート剤を用いた酸性化汚泥からの重金属類の吸着除去・回収



下水処理によって生じる下水汚泥は、有機物や窒素、リンなどの栄養塩を豊富に含むことから、エネルギー源や肥料としての有効利用が期待できます。一方で、下水汚泥を肥料として有効利用する場合、下水汚泥中に存在する有害な重金属類の濃度を低減する必要があります。
本研究では、汚泥の農業利用を推進するため、重金属類を効率的に低減できる方法として、重金属類の吸着効果があるキレート剤への吸着除去を検討しています。酸性化消化汚泥中の様々な重金属類について繊維状キレート剤への吸着特性を把握し、キレート剤を用いた酸性化汚泥からの重金属除去法を構築します。

鉄(VI)酸カリウムを用いた下水汚泥中有害物質の除去



下水処理により発生する下水汚泥は、現在、資源としての有効利用が進められています。下水汚泥にはリンが豊富に含まれているため、肥料として有用です。しかし下水汚泥には重金属や医薬品、内分泌攪乱物質などの有機微量有害物質も含まれているので、そのまま堆肥として利用すると農地の汚染を招きます。そこで、汚泥を安全に利用するため、汚泥から有害物質を分解・除去する方法について研究しています。

土壌へ移行する抗菌剤の挙動解明



(高速液体クロマトグラフータンデム質量分析装置)
家畜に投与された抗菌剤の一部は排せつ物とともに体外に排出します。家畜糞は有機質肥料として農地に施用されるので、排せつ物とともに抗菌剤が農地土壌へ移行します。環境中へ抗菌剤が拡散することによって、生態系への悪影響や薬剤耐性菌発生の助長が懸念されています。
土壌中での抗菌剤の挙動(吸着性、分解性)は抗菌剤の種類や土壌の種類によって異なりますが、どのような土壌で分解しやすいのか、また、その分解生成物が生物へ悪影響を及ぼすのかを知る必要があります。本研究では、様々な土壌を用いて、抗菌剤の土壌中での動きやすさや分解しやすさ、また抗菌剤やその分解生成物の生態系への影響について明らかにし、土壌-水域環境の健全性確保を目指します。
- 小野寺弘展, 石関拓実, 石川奈緒, 伊藤歩, 海田輝之, 土壌中でのタイロシンの動態とその影響因子, 土木学会論文集G(環境),Vol.75, pp.34 – 41, 2019.
- Nao ISHIKAWA, Yunosuke OSANAI, Yuki SATO, Taiti HOSONO, Makoto SASAMOTO, Ayumi ITO, Nobuyoshi ISHII, Keiko TAGAMI, Sulfamethazine sorption, degradation, and the percentage of sulfamethazine degradation products in solid, liquid, and gas phases in soil, Journal of JSCE (Japan Society of Civil Engineers), Vol.12, 24-00079, pp.1 – 9, 2024.