研究内容
Resarch content

1.粘土のせん断強度発現機構に関する研究

 本研究の目的は,粘土のせん断抵抗係数”tanφ”のメカニズムを解明することである。せん断抵抗係数tanφは,土のせん断特性を表すパラメータとして大変重要である。tanφは垂直応力の増減に対するせん断応力の増減率を表し,せん断強度の種類ごとに,それぞれピーク強度にはtanφp,完全軟化強度にはtanφs,残留強度にはtanφrと表記される。ピーク強度とは,過圧密粘土の最大せん断強さのことで,完全軟化強度とは練り返し粘土を正規圧密して得られた最大せん断強さを示す。通常せん断強度といえばどちらかを一方さす。残留強度は,大きな変位せん断後に得られる最小せん断強さのことで,地すべり安定解析に利用されるなどその工学的重要性が認識されてきている。残留強度は応力履歴やせん断速度の影響をほとんど受けず,粘土鉱物の種類ごとに一定値に収束することが知られている。T.Mitachi,T.Kuda,M.Okawara et al.(2003)は,残留状態でのせん断抵抗係数tanφrが現在のところ最も真の値に近いと考えられているボルスレフのせん断抵抗係数tanφeに等しいことを理論的に導いており,このこと(tanφe=tanφr)は,種々あるせん断強度のなかで残留強度こそが真のせん断強さと呼ぶに相応しい強度であることを示している。そこで本研究では,残留強度を対象にしている。これまでの研究から残留状態のせん断現象が平滑な2表面間の摩擦現象であり,せん断面を構成する粒子はスティックスリップ運動をしていることを発見した。地盤工学において「せん断」は,圧密,液状化などとならんで重要な地盤挙動である以上,パラメータのメカニズムを明らかにすることは重要である。本研究では,次の4テーマに焦点を絞り研究を進めており,最終的にはせん断抵抗係数tanφのメカニズムを説明できる理論を構築するとともに,従来の方法とは全く異なる理化学的手法によるせん断強度の測定技術を確立することを目指している。

 研究テーマ

 ・せん断面の微視的構造と真実接触面
   @せん断面は,平らか,それとも凹凸か?
   Aせん断面は,粒子同士の全面接触か部分接触か?
   B部分接触であるとすれば,接触面積は荷重に比例して大きくなるのか?
 ・せん断面に存在する水の物性
   @せん断面に存在する水は,液体か,固体か,はたまたその中間か?
   A強度発現に関与する水は,粒子表面の吸着水か,それとも層間水もか?
   B水分子を結合させている力の主役は(水素結合力,ファンデルワールス力,クーロン力)?
 ・せん断強度と粘土鉱物の有する永久電荷との関係
   @せん断強度と粘土鉱物の電荷は関係があるのか?
   A関係があるとすれば,その電荷は鉱物全体がもっている電荷か,それとも表面のみの電荷か?
 ・メソメカニズム 〜ミクロとマクロをつなぐメカニズム〜
   @ミクロ強度を積分するとマクロ強度になるのか?

2.土壌地下水汚染に関する研究

 近年,産業廃棄物等から漏出する有害物質による土壌地下水汚染が問題となっている。汚染土壌の被害の範囲予測,浄化を行う上で土壌地下水中における汚染物質の挙動を把握することは大変重要であり,数値解析によるシミュレーションが行われている(欧米ではリスク評価が主流?)。数値解析式には種々のパラメータが導入されてているが,現在のところ確立された測定方法がなく,測定者独自の方法で求めているようである。なかでも移流分散方程式に用いられる分散係数Dは,カラム内に充填された供試体にトレーサー(模擬汚染物質)を浸透させて求めることから,浸透時間が短い砂に対しては測定されているものの,粘土,シルトなどの透水性の低い物質については測定例が少ない。そこで本研究では,分散係数測定の時間短縮を図るために浸透時間の大幅短縮に威力を発揮する遠心模型実験装置を利用する方法について研究している。遠心模型実験は,模型に遠心加速度N[G]をかけることで透水時間が重力場の1/N2に短縮され,例えば重力場で1年を要する実験が遠心加速度50Gでは約3時間30分に短縮される。

*移流分散方程式とパラメータ
  移流分散方程式の基本式は,時間項,分散項,移流項の3つの項から構成され,時間項と分散項には物質移動の度合いを表すパラメータ(分散係数と遅延係数)が含まれている。

                                               


分散係数D [cm2/s] :分散現象による濃度の広がりの程度を表す。メカニズムから機械的分散現象と分子拡散現象に分けられる。
                            D=D’ + Dd*

機械的分散係数:D’[cm2/s]
  間隙水に溶けた汚染物質が間隙構造による経路長の違いや分岐によって広がる機械的分散現象の程度を表す。

分子拡散係数:Dd*[cm2/s]
  水溶性物質が分子のブラウン運動により間隙水に溶けて広がる分子拡散現象の程度を表す。低透水性の粘土地盤に  おける物質移動は分子拡散が主である。

遅延係数:R [-]
  土粒子に対する吸脱着現象による汚染物質の間隙内流速に対する遅れの程度を表す。汚染物質が土粒子に対して   非吸着性である場合,遅延係数Rは1となる。